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和歌山地方裁判所新宮支部 昭和33年(ワ)355号 判決

原告 山口清一

被告 宮上義穂

主文

原告所有にかかる、和歌山県東牟婁郡北山村大字尾井八〇八番山林と、被告所有にかかる同所八〇七番山林との境界は、同所四の川橋西詰から四の川沿いに南北に通ずる道路を八七七米北進した地点(別紙図面(ハ))を起点とし、右(ハ)点から北西ないし西方に入り込んでいる峪(通称水呑峪)の線であることを確定する。

右八〇七番及び同所八〇八番山林内(但し、四の川橋西詰から四の川沿いに南北に通ずる道路を一一九米北進した地点-別紙図面(ロ)-を起点とし、右(ロ)点から西方の山頂に達する尾嶺の線と、前項の水呑峪に挾まれた山林)に生立する立木、及び、伐採素材(六五石)が原告の所有であることを確認する。

被告は、原告に対し、金六九、一〇五円、及び、これに対する昭和三三年四月二六日から完済まで、年五分の金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は、金員支払部分に限り、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「(一)原告所有にかかる和歌山県東牟婁郡北山村大字下尾井八〇八番山林と、被告所有にかかる同所八〇七番山林の境界は、同所四の川口に架設した四の川橋西詰より、四の川沿いに南北に通ずる道路を一一九米北進した地点(別紙図面(ロ))を起点とし、右(ロ)点から西方山頂に達する尾嶺の線(以下別紙図面(ロ)~(ホ)線という)であることを確定する。(二)右境界線の北側の山林(地上立木を含む)、及び、右山林内に伐採してある素材六五石が原告の所有であることを確認する。(三)被告は、原告に対し、金一〇万円及びこれに対する昭和三三年四月二六日から完済まで年五分の金員を支払え。(四)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに、金員支払部分について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として「原告は、昭和一四年四月三〇日、訴外小西利雄から、その所有にかかる和歌山県東牟婁郡北山村下尾井八〇八番ないし八一六番の山林を買受け、当時伐期にあつた立木はこれを伐採し、その後直ちに植林し、境界に残存した立木には原告の所有である旨の表示をなし、爾来山番をして下苅その他の管理をさせてきたものであつて、右八〇八番の山林と、これに南接する同所八〇七番の山林の境界は、請求の趣旨(一)記載の通りであるところから、被告は訴外畑林幸子からその所有にかかる右八〇七番山林の立木を買受けたと称し、同三三年四月上旬、不法にも右境界を越えて原告所有の八〇八番及びこれに順次北接する八〇九番、八一〇番の山林内に侵入し、杉檜立木六五石を伐採するに至つたので、原告は、右伐採等禁止の仮処分申請をし、当庁昭和三三年(ヨ)第一六号仮処分申請事件として、右趣旨の仮処分決定を得、同年四月一日これが執行をしたが、被告の不法伐採による立木自体の損害金一〇〇、〇〇〇円、及び、右仮処分申請のために別紙費用明細書記載の通り金七二、七四〇円、以上合計金一七二、七四〇円の損害を蒙つた。よつて、ここに、前記境界の確定を求めるとともに、被告に対し、右境界線以北の山林(地上立木を含む)及び右山林内に在る伐倒素材六五石が原告の所有である旨の確認、ならびに、右損害の内金一〇〇、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日たる同三三年四月二六日から完済まで、民法所定年五分の遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及んだ。」と述べ、証拠として、甲第一号証の一ないし九、第二号証、第三号証の一ないし九、第四号証、第五及び第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一ないし四、検甲第一及び第二号証を提出し、証人亀田光治郎、山田定吉、三上正文、森本嘉一郎、小西利裕、松本鎌一郎、及び、畑林幸子の証言、ならびに、原告本人尋問の結果、及び、検証の結果を援用し、乙号各証の成立を認め、乙第一号証の二、三の立証趣旨を否認した。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告主張の事実中、原告が、その主張の頃訴外小西利雄から八〇八番ないし八一六番の山林を買受け、被告が、原告主張の頃訴外畑林幸子からその所有にかかる八〇七番山林の立木を買受け、別紙図面(ロ)~(ホ)線の北側に生立する杉檜立木六五石を伐採したことは認めるが、被告所有の八〇七番山林と原告所有の八〇八番山林との境界は、原告主張の右(ロ)~(ホ)線ではなく、四の川橋西詰より四の川沿いに南北に通ずる道路を八七七米北進した地点(別紙図面(ハ))を起点とし、右(ハ)点から西方に入り込んでいる峪の線(以下単に水呑峪という)であつて、右(ロ)~(ホ)線と水呑峪に挾まれた山林が被告が買受けた八〇七番及び八〇六番の山林であり、被告は右両山林内の立木を伐採したものであるからなんら不法に伐採したものではない。従つて、原告の本訴請求は失当である。」と述べ、証拠として、乙第一及び第二号証の各一ないし三を提出し、証人中西松三郎、滝本政一、及び、久保岡菊次郎の証言、ならびに検証の結果を援用し、甲第一号証の一ないし九、第二号証、第四号証、第五及び第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一ないし四の各成立を認め、同第二号証の立証趣旨を否認し、同第三号証の一ないし九は不知と述べた。

理由

一、原告が、昭和一四年四月三〇日、訴外小西利雄からその所有にかかる、和歌山県東牟婁郡北山村大字下尾井八〇八番ないし八一六番の山林九筆を買受け、同年一二月二七日所有権移転登記手続をしたこと、被告が、同三三年四月上旬、訴外畑林幸子からその所有にかかる同所八〇六番及び八〇七番の山林に生立する立木を買受け、別紙図面(ロ)~(ホ)線と水呑峪に挾まれた部分がその買受山林であると主張して、右部分に生立する杉檜立木の内六五石を伐採したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、よつて先ず、原告所有の八〇八番山林と被告が買受けた八〇七番山林の境界について老えてみるに、証人中西松三郎、滝本政一、及び、久保岡菊次郎の証言に、検証の結果、ならびに、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三を綜合し、更に、後記認定のような本件各山林売買の経緯を考え合わせると、右八〇八番山林と八〇七番山林の境界は、被告主張の通り水呑峪の線であると認めるのが相当であつて、右認定を左右するに足る的確な証拠がない。尤も、前掲証拠によると、同所八〇五番から八一六番に至る山林は、南から北へ四の川沿いに順次相接しており、訴外久保岡菊次郎所有の八〇五番山林と被告が買受けた八〇六番山林の境界、即ち別紙図面(ロ)~(ホ)線の起点(ロ)から、水呑峪の起点(ハ)までの被告買受両山林(その登記簿上の面積が合計二町二畝二〇歩であることは、後記認定の通りである。)の山すそ道路に接する距離が七五八米あるのに対し、原告所有の九筆の山林(その登記簿上の面積が、合計九町七反一六歩であることは、成立に争いのない甲第一号証の一ないし九によつて明かである。)の、山すその道路に接する距離、即ち、右(ハ)から、北端の八一六番山林の北側境界線たる通称蛇の杭の線(この線が北側の境界線であることは後記認定の通りである。)、即ち別紙図面(ニ)~(ト)線の起点(ニ)までの距離が僅かに二六七米に過ぎず、一見不合理であるように考えられるけれども、前掲証人中西及び滝本の証言及び検証の結果に成立に争いのない甲第四号証を考え合わせると、被告主張の両山林は奥が浅いため、前示認定の境界による実測面積は約五、六町歩に過ぎないのに対し、原告所有山林は奥が深いため、その実測面積は約二五町歩に達することが認められるから、道路に接する距離の長短によつても前示認定を覆えすに足りない。よつて、八〇八番山林と八〇七番山林の境界は被告主張の水呑峪の線であると確定する。

三、そうすると、被告が伐採した立木は、八〇六番及び八〇七番山林内に生立していたことになるのであるが、右両山林内に生立する立木が何人の所有に属するかということは、本件においては別に考察を加える必要がある。

成立に争いのない甲第一号証の一ないし九、第四号証、第五号証の一、二、第八号証の一ないし四、乙第二号証の一ないし三に、検証の結果、ならびに、証人亀田光治郎、山田定吉、三上正文、森本嘉一郎、小西利裕及び畑林幸子の証言、原告本人尋問の結果を考え合わせると、訴外小西利雄が昭和一四年四月当時、南から北へ順次接続する八〇六番ないし八一六番の山林を全部所有していたところ、同訴外人及びその管理人訴外三上定吉等は、その南端の境界即ち八〇六番山林とこれに南接する当時訴外中谷利一郎所有(現在久保岡菊次郎所有)の同所八〇五番山林との境界が、別紙図面(ロ)~(ホ)線であり、北端の境界即ち八一六番山林とこれに北接する他人所有の同所八二三番山林との境界が別紙図面(チ)~(ニ)~(ト)の線(通称蛇の杭)であることは知つていたが、右両境界線に挾まれて存在する八〇六番ないし八一六番の山林各筆相互の境界については、これを知る実際上の必要がなかつたためはつきり知らなかつたこと、訴外小西利雄が本件係争地附近に所有していた山林は、右八〇六番ないし八一六番の山林一一筆のみであつたこと、同訴外人が原告に対し右所有山林全部を売却し、同訴外人の管理人であつた訴外三上定吉が原告等を案内して、右売買山林の境界として、前示(ロ)~(ホ)線及び通称蛇の杭を指示したものであるが、原告に対する所有権移転登記手続をする際、八〇八番ないし八一六番の山林の登記手続をしたのみで、八〇六番と八〇七番の移転登記が洩れていたこと、原告が右登記洩れの事実を知らず、買受山林全部の登記手続を完了したものと信じ、買受後八〇六番及び八〇七番山林に生立していた立木を殆んど全部伐採し、その跡に直ちに植林をしてこれを撫育し、又前示(ロ)~(ホ)線に沿つて伐り残した立木に、原告の所有であることを公示するため、原告の商標たるの印を入れ、又、右(ロ)~(ホ)線に接して四の川沿いの道路横に露出した別紙図面〈1〉の地点の岩盤にも右と同じ印を墨書しておいたこと、前示売買後訴外小西利雄が死亡し、訴外小西利裕が相続をしたが、同訴外人も自己が登記簿上八〇六番及び八〇七番の山林の所有者となつていることを知らなかつたところ、たまたま右両山林に対する固定資産税が同訴外人に賦課されていることから右事実を知り、訴外北出利憲の画策もあつて、右両山林を訴外畑林幸子(実際は訴外北出)に譲渡して、同三三年三月二〇日その旨の所有権移転登記手続をし、ついで被告が訴外畑林から右両山林上に生立する立木を買受け、これが伐採に着手したことが、それぞれ認められ、右認定を覆えすに足る的確な証拠がない。

そうすると、原告は、右山林一一筆全部を買受けながら、その内八〇六番及び八〇七番の山林(土地)について、所有権移転登記を受けない間に、訴外畑林が右山林(土地及び立木)を買受けて、これが所有権移転登記を完了したことになるのであるから、原告は右訴外人に対し、-従つて同訴外人から地上立木を受けた被告に対し-右両山林(土地)の所有権が自己にあることを主張し得ないことは、民法一七七条によつて明かであるが、その地上立木については、原告が右両山林を含めた一一筆の山林買受後、買受当時生立していた地上立木を伐採してその跡へ植林し、かつ、明認方法を施しているのみならず、仮に明認方法に十分でない点があつたとしても、少くとも原告が植林する当時、右両山林が原告の所有でないと主張し得る第三者が存在しなかつたことは前示認定の事実からみて明かであるから、右植林した立木は、原告が権原(所有権)に基いて両山林に附属せしめた物というべきであつて、民法二四二条但書により、原告はその後両山林を買受けた訴外畑林幸子-従つて同訴外人から右立木を買受けた被告-に対し、右立木が原告の所有であることを主張し得るものといわねばならない。してみると、原告の本訴所有権確認の請求中、被告に対し、右両山林内の立木及び伐倒素材六五石が原告の所有であることの確認を求める部分は正当であるが、右両山林(土地)が原告所有の八〇八番ないし八一六番山林に含まれる趣旨で、それが原告の所有であることの確認を求める部分は失当として棄却を免かれない。

四、よつて進んで損害賠償の請求について判断する。

訴外畑林から、前示八〇六番及び八〇七番山林に生立する立木を買受けた被告が、右立木に被告所有の旨を表示する印を入れ、かつ、これを伐採するおそれがあつたため、原告が、同三三年三月二九日附内容証明郵便をもつて、被告に対し、右印の削除ならびに立木伐採禁止の通告をしたが、被告はこれをきゝ入れず、前示の通り右両山林内の立木六五石を伐採したことは、成立に争いない甲第二号証と原告本人尋問の結果、ならびに検証の結果によつて認められ、原告が被告を債務者として、当庁に対し、右伐採行為等禁止の仮処分を申請し、当庁昭和三三年(ヨ)第一六号仮処分申請事件として右趣旨の仮処分決定がなされ同年四月一日これが執行されたことは、被告において明かに争わないところであつて、右仮処分は、被告の過失による不法行為を防止ないし除去するためになされたことは、前示認定の各事実に徴して明かであるから、被告は、原告に対し、原告が右仮処分に要した費用のほか不法伐採によつて原告が蒙つた損害を賠償すべき義務があるといわねばならないところ、原告本人尋問の結果に、これにより真正に成立したと認められる甲第三号証の一ないし八によると、原告が右仮処分申請手続ならびにその執行手続をするために、別紙費用明細書(1) ないし(8) 記載の通り合計金六九、一〇五円を支出し、これと同額の損害を蒙つたことが認められるけれども、同明細書(9) 記載の費用、ならびに、被告の立木伐採による立木自体の損害金一〇〇、〇〇〇円の発生したことについては、これを認めるに足る的確な証拠がない。

してみると、原告の損害賠償請求中、右損害金六九、一〇五円、及び、これに対する訴状送達の翌日たる昭和三三年四月一六日から完済まで、民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める部分は正当であるが、その余の部分は失当である。

五、よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を、金員支払部分についての仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

費用明細書

(1)  書類作成代書料       金 三、一一〇円

(2)  仮処分執行のための自動車賃 〃 五、九四〇円

(3)  弁護士委任着手金      〃五二、〇〇〇円

(4)  執行吏執行費用       〃 四、〇〇〇円

(5)  伐採実地調査費       〃 三、五六〇円

(6)  電話料           〃   二二五円

(7)  同             〃    七五円

(8)  内容証明料(代書料共)   〃   一九五円

(9)  調査労務賃追加分      〃 三、六三五円

合計            〃七二、七四〇円

東牟婁郡北山村大字下尾井字

四ノ川八〇八、八〇七番地附近見取図

図〈省略〉

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